レイノルズ数とは?

流体力学
はじめに

 実機と同じ形の翼を小さく作れば、空気の流れもそのまま小さく再現できるのでしょうか。実際には、形をそろえるだけでは十分ではありません。物体の大きさや流速が変わると、流れの中で粘性が持つ相対的な影響も変わるためです。この違いを整理するために用いるのが、レイノルズ数(Reynolds Number)です。

 本記事では、定義と物理的な意味を確認し、層流・乱流、模型実験の相似則、低レイノルズ数で使う翼型へとつなげて解説します。

  • レイノルズ数の定義と、慣性・粘性の関係
  • 代表長さの選び方と計算例
  • 層流・乱流・遷移との関係
  • 相似則と模型実験
  • 低Re翼型と層流剥離泡
レイノルズ数(Reynolds Number)

 レイノルズ数とは、流れにおける慣性の効果と粘性の効果の相対的な大きさを表す無次元数です。

Re = ρUL / μ = UL / ν

ここで、Re:レイノルズ数[−]、ρ:密度[kg/m³]、U:代表速度[m/s]、L:代表長さ[m]、μ:粘性係数[Pa·s]、ν:動粘性係数[m²/s]を表します。動粘性係数は ν = μ/ρ です。この記事の L は長さを表し、揚力の記号ではありません。

 慣性は流体の運動の変化に関わり、粘性は流体内部の速度差に伴う運動量の伝達に関わります。代表的な速度変化が距離 L の範囲で起こると考えると、運動方程式の各項の大きさは、おおよそ次のように見積もれます。

慣性項:ρU²/L  粘性項:μU/L²

慣性項 / 粘性項 ≈ (ρU²/L) / (μU/L²) = ρUL/μ

 この比がレイノルズ数です。「慣性力と粘性力の比」と説明されますが、機体に働く揚力と摩擦抗力を直接割った値ではなく、運動方程式の項の代表的な大きさを比較したものとして捉えると正確です。Re が小さいほど粘性の影響が相対的に強く、大きいほど慣性の影響が相対的に強くなります。ただし、Re が大きくても、翼表面付近では粘性を無視できません。参考:NASA — Similarity Parameters

代表長さと代表速度

 レイノルズ数を計算するときは、何を代表長さに選んだかを明確にする必要があります。同じ流れでも、基準にする長さが異なれば数値は変わります。

対象代表長さ代表速度
翼型翼弦長 c一様流の速度 U∞
円管内の流れ管の内径 D断面平均速度
平板上の境界層前縁からの距離 x境界層の外側の代表速度

 翼型の比較では、翼弦長 c を使ったレイノルズ数 Rec がよく用いられます。

Rec = U∞c / ν

 例えば、U∞ = 10 m/s、c = 0.30 m、ν = 1.5 × 10−5 m²/s と仮定すると、

Rec = (10 × 0.30) / (1.5 × 10−5) = 2.0 × 105

となります。これは説明用の計算例で、特定の機体の実測値ではありません。動粘性係数は一定の万能な値ではなく、空気の温度や圧力などの条件に応じて選びます。同じ空気・同じ速度なら、翼弦長を半分にすると Re も半分になります。一方、前回扱った動圧 q = ½ρU² は翼弦長を含まないため、この場合は変わりません。動圧が同じでも、粘性の相対的な影響まで同じとは限らないということです。

層流・乱流・遷移

 層流(Laminar Flow)とは、流体が比較的整った層状の運動をする流れです。乱流(Turbulent Flow)では、速度が時間的・空間的に不規則に変動し、渦を伴う混合が起こります。層流から乱流へ移り変わる過程を、遷移(Transition)と呼びます。

 翼の表面近くには、粘性によって速度が大きく変化する境界層(Boundary Layer)が形成されます。静止した翼表面では、通常の滑りなし条件のもとで空気の速度はゼロとなり、表面から離れるにつれて外側の流れの速度へ近づきます。この境界層が層流か乱流かは、摩擦や剥離の挙動に影響します。参考:NASA — Boundary Layer

 ただし、Re だけで流れの状態が一意に決まるわけではありません。遷移は、流れの乱れ、表面の粗さ、圧力勾配などにも左右されます。円管内の流れで使う遷移の目安を、そのまま翼の周りの流れへ当てはめることはできません。また、「低Reなら翼全体が必ず層流」「乱流なら必ず性能が悪い」ともいえません。翼のどの位置で、どのような流れが起きているかを考える必要があります。

相似則(Similarity)と模型実験

 形状が相似な模型でも、実機と流れの条件が違えば、同じ空力係数が得られるとは限りません。粘性の影響をそろえるうえで重要なのが、模型と実機のレイノルズ数を合わせることです。

Re模型 = Re実機

 例えば、同じ動粘性係数の空気で、長さを実機の1/5にした模型を使うとします。同じ Re を得るには、

U模型 × (L実機/5) = U実機 × L実機

U模型 = 5U実機

が必要です。実機が10 m/sなら、模型では50 m/sとなります。同じ速度で試験した場合、模型の Re は実機の1/5です。ただし、速度を上げるとマッハ数も変わります。圧縮性が重要な場合は、Re だけを合わせても十分ではありません。形状、迎角、表面状態、流れの乱れなども含めて、比較条件をそろえる必要があります。参考:NASA — Similarity Parameters

低Re翼型と層流剥離泡

 模型航空機や小型の翼では、低速・短い翼弦長によって Re が小さくなりやすくなります。翼型の分野では、例えば Re が10万〜数十万の範囲も低レイノルズ数の研究対象となります。ただし、「低Re」の範囲は対象や目的によって異なり、一つの境界値で区切られるものではありません。

 この領域で重要なのが、層流剥離泡(Laminar Separation Bubble)です。翼表面の層流境界層が剥がれ、その後、剥がれた流れのせん断層が乱流へ遷移して再び翼表面に付着すると、剥離点と再付着点の間に再循環する領域が生じます。ここでいう「泡」は空気中の気泡ではなく、翼表面付近にできる流れの領域です。層流剥離泡の位置や大きさは抗力などに影響するため、低Re翼型では遷移と剥離の扱いが重要になります。参考:M. S. Selig — Low Reynolds Number Airfoil Design(2003)     

 UIUCの公開資料には、Eppler 387翼型について、Re = 100,000、迎角2°での層流剥離泡を煙で可視化した例が掲載されています。このような実験を見ると、同じ翼の周りでも流れが一様な状態ではないことが分かります。参考:UIUC — Low Reynolds Number Flow Visualization

 翼型を比較するときは、最大揚抗比の数字だけを見るのではなく、使用する Re と必要な揚力係数に近い条件のデータを確認します。別の Re で性能のよかった翼型が、そのまま最適になるとは限りません。

まとめ
概念押さえておきたいこと
レイノルズ数Re = ρUL/μ = UL/ν。慣性と粘性の相対的な影響を表す無次元数。
代表長さ翼なら翼弦長など、何を基準にしたかを明記する。
層流・乱流Re は重要な指標だが、乱れや表面状態などにも左右される。
相似則模型と実機の形だけでなく、流れの条件も比較する。
低Re翼型使用条件に近いデータで、遷移や剥離を含む性能を確認する。

 レイノルズ数は、単に層流・乱流を判定するための数字ではありません。大きさや速度が異なる流れを比較し、翼型データを自分の設計条件へ結び付けるための基準です。次回は、圧縮性の影響を考えるうえで重要な「マッハ数」を扱います。

前の記事:静圧・動圧・全圧とは? / 航空機力学の学習目次へ

タイトルとURLをコピーしました