はじめに
翼型の資料や解析結果を見ると、CL、CD、CM、Cpといった記号が出てきます。これらは、空気力や圧力を比較しやすい形に整理した「空力係数」です。
同じ翼でも、飛行速度や空気密度が変われば揚力と抗力は変わります。力の大きさだけでは、形状による違いと飛行条件による違いを分けて考えにくいため、動圧や面積を使って無次元化します。本記事では、それぞれの係数の意味と、翼型や機体の性能を比較するときの注意点を説明します。
空力係数は何を表しているのか
無次元化とは、同じ単位を持つ基準量で割り、単位のない数にすることです。航空機の空気力では、遠方の一様流の動圧と基準面積を組み合わせます。
q∞ = ρ∞V∞²/2
ここでq∞は動圧[Pa]、ρ∞は空気密度[kg/m³]、V∞は機体に対する一様流の速さ[m/s]です。添字∞は、機体による影響を受ける前の遠方の流れを表します。
動圧に基準面積S[m²]を掛けると、q∞Sの単位はNになります。揚力や抗力をこの量で割れば、無次元の係数が得られます。係数は力そのものでも、エネルギー変換効率でもありません。1を超える値を取ることもあります。
| 係数 | 定義 | 着目する量 |
|---|---|---|
| 揚力係数 CL | L/(q∞S) | 揚力 |
| 抗力係数 CD | D/(q∞S) | 抗力 |
| モーメント係数 CM | M/(q∞Scref) | 指定した点まわりの回転作用 |
| 圧力係数 Cp | (p − p∞)/q∞ | 各位置の静圧と一様流静圧との差 |
揚力係数(Lift Coefficient)
CL = L/(q∞S)
L = q∞SCL
Lは揚力[N]です。同じ動圧と基準面積なら、CLが大きいほど揚力は大きくなります。航空機では、Sに主翼の平面形の基準面積を使うのが一般的です。
CLは翼型だけで決まる定数ではありません。迎角、レイノルズ数、マッハ数、翼の三次元形状などによって変化します。失速前の限られた範囲では、迎角に対しておおむね直線的に増える場合がありますが、その関係を失速後まで延長することはできません。
定常水平飛行でL ≈ Wと近似すると、必要な揚力係数はCL ≈ W/(q∞S)です。Wは重量[N]で、質量[kg]とは異なります。同じ重量と翼面積なら、低速ほど大きな揚力係数が必要です。参考:NASA:Lift Coefficient
抗力係数(Drag Coefficient)
CD = D/(q∞S)
D = q∞SCD
Dは抗力[N]です。同じ動圧と基準面積なら、CDが小さいほど抗力は小さくなります。ただし、必要な揚力を得られているかも確認しなければなりません。揚力がほとんど出ていない条件で抗力係数が小さくても、そのまま飛行に適した条件とはいえません。
基準面積の定義にも注意が必要です。主翼面積を使った係数と正面投影面積を使った係数では、同じ抗力でも数値が変わります。抗力係数だけを抜き出して比較することはできません。参考:NASA:Drag Coefficient
モーメント係数(Pitching-Moment Coefficient)
翼に働く空気力は、機体を持ち上げたり減速させたりするだけでなく、回転させる作用も持ちます。ここでは機首を上げ下げするピッチングモーメントを扱います。
CM = M/(q∞Scref)
Mは指定した基準点まわりのピッチングモーメント[N·m]、crefは基準長さ[m]です。航空機では通常、平均空力翼弦などを基準長さに用います。q∞Sだけでは力の単位なので、長さをもう一つ掛けてモーメントの単位に合わせます。
本記事では、機首上げを正、機首下げを負とします。この符号規約なら、CMが負であることは、その基準点まわりに機首下げの作用があることを表します。
基準点を変えると、同じ空気力でもモーメントが変わります。翼弦の25%位置まわりの値と、重心まわりの値は同じではありません。CMの値を読むときは、基準点・基準長さ・符号規約を合わせて確認します。また、CMが負というだけでは、機体の安定性は判断できません。重心まわりで、迎角の変化に対してモーメントがどう変わるかなどを調べる必要があります。参考:Embry-Riddle:Forces and Moments
圧力係数(Pressure Coefficient)
Cp = (p − p∞)/q∞
pは調べたい位置の静圧[Pa]、p∞は一様流の静圧[Pa]です。圧力係数は、翼全体の力ではなく、表面の各位置などにおける圧力を表します。
- Cp = 0:一様流と同じ静圧。
- Cp > 0:一様流より高い静圧。
- Cp < 0:一様流より低い静圧。
負のCpは、絶対圧力が負という意味ではありません。あくまで一様流との差が負であることを表します。例えばq∞ = 60 Pa、Cp = −0.8なら、p − p∞ = −48 Paです。
定常・非粘性・非圧縮性で、高さの差を無視でき、一様流から同じベルヌーイ定数を使える位置では、局所流速Vを用いて次の関係が得られます。
Cp = 1 − (V/V∞)²
この条件では、一様流より速い場所はCpが負となり、よどみ点ではCp = 1です。これは圧力係数の定義そのものではなく、ベルヌーイの式を使った条件付きの関係です。圧縮性や損失が重要な流れへそのまま使うことはできません。参考:MIT:Fluids Lab 1 – Lecture Notes
翼型の圧力分布は、横軸をx/c、縦軸をCpとして示すことがあります。x/cは前縁からの距離を翼弦長で割った位置です。負のCpを上向きに描く慣習もあるので、グラフの上下だけで圧力の大小を判断せず、目盛りを確認します。
揚抗比(Lift-to-Drag Ratio)
揚抗比L/Dは、抗力に対してどれだけ揚力を得ているかを表します。揚力係数と抗力係数に同じ動圧・基準面積を使えば、次のようになります。
L/D = CL/CD
例えばCL = 0.8、CD = 0.04なら、揚抗比は20です。同じ揚力を必要とする条件では、揚抗比が大きいほど抗力を小さくできます。ただし、最大揚力係数の点と最大揚抗比の点は一般に一致しません。揚力を増やすと抗力も変わるためです。
また、翼型単体の揚抗比と機体全体の揚抗比は区別します。機体全体には、有限翼の誘導抗力や胴体、尾翼、接合部などの影響が含まれます。翼型の解析で得た揚抗比を、そのまま機体の滑空性能として扱うことはできません。
係数を実際の力へ戻す計算例
次の値を仮定します。特定の機体の実測値ではなく、単位と計算方法を確認するための例です。
- ρ∞ = 1.2 kg/m³、V∞ = 10 m/s
- S = 10 m²、cref = 0.8 m
- CL = 0.8、CD = 0.04、CM = −0.05
q∞ = 1.2 × 10²/2 = 60 Pa
L = 60 × 10 × 0.8 = 480 N
D = 60 × 10 × 0.04 = 24 N
M = 60 × 10 × 0.8 × (−0.05) = −24 N·m
L/D = 480/24 = 20
同じ係数でも、動圧や基準面積が変われば力は変わります。一方、速度を変えたときに係数まで一定とは限りません。Re数やマッハ数、必要な揚力を保つための迎角も変化するからです。
翼型や解析結果を比較するときの確認事項
- 二次元の翼型断面か、三次元の翼・機体全体か。
- 基準面積、基準長さ、モーメントの基準点が同じか。
- 迎角、Re数、マッハ数が目的の飛行条件に対応しているか。
- 表面粗さや境界層の遷移条件がそろっているか。
- 失速前の結果か、剥離が大きい領域の結果か。
- 同じ迎角で比較するのか、必要な揚力係数をそろえて比較するのか。
翼型断面では、小文字のcl、cd、cmで係数を表す慣習があります。断面揚力l′[N/m]ならcl = l′/(q∞c)で、cは翼弦長です。三次元のCLと表記を分ける資料もありますが、記号の使い方は資料やソフトによって異なるため、定義を確認します。
人力飛行機の翼型を選ぶ場合も、最も大きな揚抗比の数字だけで決めず、実際に使うRe数と必要な揚力係数の近くで、抗力やモーメントがどう変わるかを見ることが大切です。参考:Embry-Riddle:Aerodynamics of Airfoil Sections
まとめ
- CLとCDは、揚力と抗力を動圧×基準面積で無次元化した量。
- CMは回転作用を表し、基準点と符号規約の確認が必要。
- Cpは局所的な静圧と一様流静圧との差を動圧で割った量。
- 同じ基準を使えば、揚抗比はCL/CDで求められる。
- 係数は一定とは限らず、流れの条件と対象をそろえて比較する。
空力係数は、複雑な空気力を比較するための共通の尺度です。数値の大小だけでなく、何を基準に、どの条件で求めた値なのかを読むことで、翼型の資料や解析結果を設計に結び付けられます。
次は「翼型とは」で、キャンバー・翼厚・NACA翼型・低Re翼型と翼型極線を整理します。

