はじめに
航空機は、どのように空気に対する速度を測っているのでしょうか。機体に取り付けられたピトー管は、空気の圧力を利用して速度を求めるための装置です。そのしくみを理解するには、静圧・動圧・全圧の違いを整理する必要があります。
本記事では、それぞれの物理的な意味を説明したあと、ベルヌーイの定理との関係、ピトー管による速度計測、人力飛行機の設計とのつながりを解説します。
- 静圧
- 動圧
- 全圧
- ベルヌーイの定理との関係
- ピトー管で速度を測る仕組み
- 圧縮性が無視できない場合
静圧(Static Pressure)
静圧とは、流体がその場所で持っている圧力です。記号には p を用い、単位は Pa(パスカル)です。「静」という文字が付いていますが、静止した流体だけに存在する圧力ではありません。翼の周りを流れる空気にも、その場所ごとの静圧があります。圧力によって面積 A の小さな面に働く力の大きさは、面内で圧力が一様なら、
F = pA
で表されます。ここで、F:面に垂直な力[N]、p:静圧[Pa]、A:面積[m²]です。翼の表面では静圧が場所によって異なります。この圧力分布による力を翼全体で足し合わせることが、揚力や抗力を考える基礎になります。
動圧(Dynamic Pressure)
動圧とは、流れの速さと密度から定義される、圧力の単位を持つ物理量です。
q = ½ρV²
ここで、q:動圧[Pa]、ρ:流体の密度[kg/m³]、V:流速[m/s]を表します。この式は、運動エネルギーの式 E = ½mV² とよく似ています。質量を単位体積あたりの質量である密度に置き換えると、動圧は単位体積あたりの運動エネルギーに相当する量として理解できます。動圧は速度の2乗に比例します。密度が同じなら、速度が2倍になると動圧は4倍になります。ただし、動圧を「物体表面のどこにでも、そのまま加わる圧力」と考えるのは適切ではありません。実際の表面圧力は、物体の形状や迎角、周囲の流れによって変わります。動圧は、そのような空気力を整理する基準として使われます。参考:NASA — Dynamic Pressure
全圧(Total Pressure)
全圧とは、流れを損失なく減速させ、速度をゼロにしたときに得られる圧力です。よどみ圧とも呼ばれ、ここでは p0 と表します。密度変化を無視でき、高さの変化も無視できる条件では、
p0 = p + ½ρV² = p + q
となります。流れが減速すると、運動エネルギーに対応する分が静圧の上昇として現れます。速度がゼロになる場所をよどみ点といい、理想的な減速では、そこでの静圧が元の流れの全圧に等しくなります。全圧を理解するときは、「静圧と動圧を足す」という式だけでなく、流れを止めたときにどこまで圧力が上がるかを考えるとイメージしやすくなります。
ベルヌーイの定理との関係
定常・非圧縮で、粘性の影響を無視できる流れでは、同じ流線に沿って、
p + ½ρV² + ρgz = 一定
が成り立ちます。ここで、g:重力加速度[m/s²]、z:基準面からの高さ[m]です。それぞれの項は、圧力・運動・位置に対応する単位体積あたりのエネルギーを表しています。高さの変化を無視すれば、
p + ½ρV² = 一定
となります。同じ流線上の2点で比較すると、速度が大きい側では静圧が小さくなります。ただし、どのような流れでも「速い場所は低圧」と断定できるわけではありません。比較する場所や、粘性による損失、圧縮性などの条件を確認する必要があります。一般に、異なる流線どうしで同じ定数を使えるとは限りません。参考:NASA — Bernoulli’s Equation
ピトー管で速度を測るしくみ
ピトー管は、流れに向けた開口部で全圧を測ります。一方、静圧は静圧孔で測ります。両方を一体にしたものがピトー静圧管です。
| 測定する部分 | 測定する圧力 |
|---|---|
| 流れに向けた先端の開口部 | 全圧 p0 |
| 流れの影響を適切に抑えた静圧孔 | 静圧 p |
| 両者の圧力差 | p0 − p |
非圧縮近似が使える条件では、この圧力差が動圧に等しくなります。
p0 − p = ½ρV²
これを速度について解くと、
V = √[2(p0 − p) / ρ]
となります。つまり、圧力差と空気密度が分かれば、流速を求められます。例えば、空気密度を ρ = 1.20 kg/m³、圧力差を 60 Pa と仮定すると、
V = √(2 × 60 / 1.20) = 10 m/s
です。時速に換算すると36 km/hになります。これは説明用の計算例であり、実機の測定結果ではありません。低速になるほど圧力差は小さくなるため、センサーの誤差が相対的に大きくなります。また、取付位置や流れに対する向き、管の詰まりなども計測に影響します。参考:NASA — Pitot–Static Tube
圧縮性が無視できない場合
動圧の定義、q = ½ρV²は、圧縮性流れでも使います。しかし、p0 − p = qという関係は、そのままでは使えなくなります。空気を減速させる過程で密度が変化するためです。高速域では圧縮性を考慮した関係式が必要になり、超音速ではピトー管の前に生じる衝撃波の影響も考えます。
「動圧の定義」と「全圧と静圧の差が動圧に等しい条件」は分けて覚えることが大切です。参考:NASA — Dynamic Pressure、NASA — Pitot–Static Tube
まとめ
| 概念 | 意味 | 代表的な式 |
|---|---|---|
| 静圧 | 流体がその場所で持つ圧力 | p |
| 動圧 | 流速と密度から定義される、空気力の基準となる量 | q = ½ρV² |
| 全圧 | 流れを損失なく停止させたときの圧力 | 非圧縮近似では p0 = p + q |
静圧・動圧・全圧の違いを理解すると、圧力差から速度を求めるしくみと、速度によって揚力や抗力が変わる理由がつながります。
次に扱うレイノルズ数では、流れの速さに加えて、物体の大きさや粘性が流れにどう影響するかを考えていきます。

