流体力学の基礎方程式とは?

流体力学の基礎方程式。質量・運動量・エネルギーの保存則を示す模式図。 流体力学

はじめに

 翼のまわりで空気が加速する。プロペラが空気を後ろへ押し出す。翼の表面に沿って流れていた空気が剥がれる。これらの現象を考える土台が、流体力学の基礎方程式です。

 見慣れない記号が多くなりますが、出発点は「質量保存」「運動量保存」「エネルギー保存」の3つです。本記事では、それぞれの物理的な意味を整理し、オイラー方程式とナビエ・ストークス方程式がどのようにつながるのかを説明します。 

  • 流れを表す量と、方程式の読み方
  • 連続の式(Conservation of Mass)
  • 運動量保存(Conservation of Momentum)
  • ナビエ・ストークス方程式(Navier–Stokes Equations)
  • オイラー方程式(Euler Equations)
  • エネルギー保存(Conservation of Energy)
  • ベルヌーイの式との関係
  • 方程式だけで流れは決まらない
  • まとめ

流れを表す量と、方程式の読み方

 ここでは空気を連続体として扱い、各位置・各時刻に密度ρ、圧力p、速度ベクトルu、温度Tが定まると考えます。速度ベクトルは向きと大きさを持ち、その大きさをVと表します。

  • ρ:密度[kg/m³]
  • p:静圧[Pa]
  • u:速度ベクトル[m/s]、V:速さ[m/s]
  • t:時間[s]、T:絶対温度[K]

 ∂は、ほかの変数を固定して変化を調べる「偏微分」の記号です。∇(ナブラ)は空間方向の微分をまとめた記号で、∇pは圧力の勾配、∇uは速度の発散を表します。発散は、微小な領域から流れがどれだけ広がって出ていくかを表す量です。

D/Dt=∂/∂t+(u·∇)

 D/Dtは、流体の小さな塊を追いかけて見た変化を表す「物質微分」です。固定した場所での時間変化に加え、流体が別の場所へ移動することで受ける変化も含みます。そのため、定常流でも、流れに沿って速度が変われば加速度Du/Dtはゼロになりません。

連続の式(Conservation of Mass)

 連続の式は、質量保存を表します。ある領域へ入る質量と出る質量が等しくなければ、その差だけ領域内の質量が増減します。質量の湧き出しがない流れでは、次のように表せます。

∂ρ/∂t+∇·(ρu)=0

 第1項はその場所での密度の時間変化、第2項は単位体積から正味で流れ出る質量流量を表します。両項の単位はkg/(m³·s)です。

 流体の塊の密度が変化しない非圧縮性流れでは、Dρ/Dt=0なので、連続の式は次の形になります。

∇u=0

 これは流速が一定という意味ではありません。ある方向に加速しても、ほかの方向への広がりや流路の変化とのつり合いによって、質量保存は満たされます。

 入口と出口が1つずつある定常な流路で、断面内の密度と流速を一様とみなすと、質量流量ṁは次のようになります。

ṁ=ρAV=一定
ρ₁A₁V₁=ρ₂A₂V₂

 ここで、ṁは質量流量[kg/s]、Aは流れに垂直な断面積[m²]です。両断面で密度が同じならA₁V₁=A₂V₂となります。例えば、断面積が0.30m²から0.20m²へ狭くなり、入口流速が8 m/sなら、出口流速は12 m/sです。これは定常・同密度・漏れなしという条件での計算例です。

 圧縮性流れでは密度も変化するため、断面積だけを見て流速を決めることはできません。参考:NASA:Conservation of Mass

運動量保存(Conservation of Momentum)

 運動量保存は、流体にニュートンの運動法則を適用したものです。流体の加速度は、圧力による力、粘性による力、重力などによって決まります。体積に働く力を重力だけとすると、局所的な運動方程式は次の形で表せます。

ρ Du/Dt=−∇p+∇τ+ρg

  • ρ Du/Dt:単位体積当たりの質量×加速度
  • −∇p:圧力差による力
  • ∇τ:粘性応力による力
  • ρg:重力による力

 τは粘性応力テンソル[Pa]、gは重力加速度ベクトル[m/s²]です。テンソルは、面の向きと力の向きに応じた応力の成分をまとめた量です。式の各項はN/m³で、単位体積当たりの力に対応します。圧力が高い側から低い側へ流体を押す働きがあるため、圧力項にはマイナスが付きます。ただし、実際の加速度は粘性や重力も含めた合力で決まります。翼のまわりの流速と圧力を考える際も、両者はこのつり合いを通じて結び付いています。

ナビエ・ストークス方程式(Navier–Stokes Equations)

 ニュートン流体では、粘性応力と速度の変形率を粘性係数で結び付けます。この関係を運動方程式へ代入すると、ナビエ・ストークス方程式が得られます。ここでは非圧縮性・粘性係数μが一定の場合を示します。

ρ[∂u/∂t+(u·∇)u]=−∇p+μ∇²u+ρg

 μは粘性係数[Pa·s]、∇²は空間の2階微分を足し合わせるラプラシアンです。μ∇²uは、粘性によって速度差がならされ、運動量が周囲へ伝わる効果を表します。この式は連続の式∇u=0と組み合わせて使います。
 空気には小さくても粘性があります。翼表面の摩擦や境界層、剥離を扱うには、その効果が重要です。レイノルズ数が大きい流れでも、壁の近くでは速度勾配が大きくなるため、粘性項を一律に無視できません。
 圧縮性流れや粘性係数が変化する流れでは、上の簡略形をそのまま使えません。適切な粘性応力の関係を用い、質量・運動量・エネルギーの式を組み合わせます。「ナビエ・ストークス方程式」という名称は、運動方程式だけでなく、この方程式群を指す場合もあります。参考:NASA:Navier-Stokes Equation

オイラー方程式(Euler Equations)

 粘性の影響を無視できる領域では、運動方程式から粘性応力の項を省いて考えます。

ρ[∂u/∂t+(u·∇)u]=−∇p+ρg

 これが非粘性流れのオイラー運動方程式です。「非粘性」は「非圧縮性」や「定常」とは別の仮定なので、オイラー方程式でも密度や時間による変化を扱えます。圧縮性流れでは、連続の式やエネルギーの式、状態方程式も必要です。
 翼の外側の流れを近似するのに役立つ一方、壁面摩擦や粘性による境界層を直接表せません。どちらの式を使うかは、計算の手軽さだけでなく、調べたい現象に粘性が必要かどうかで判断します。参考:NASA:Euler Equations

エネルギー保存(Conservation of Energy)

 エネルギー保存では、流れが運ぶエネルギーと、外から加わる熱・仕事の収支を考えます。ここでは理解しやすいように、入口と出口が1つずつある固定された装置を、定常状態で通過する流れを扱います。各断面の状態を一様と近似すると、代表的な式は次の形です。

Q̇−Ẇs=ṁ[(h₂ − h₁)+(V₂²−V₁²)/2+g(z₂−z₁)]

  • Q̇:装置内の流体へ入る熱の割合[W]
  • Ẇs:流体が外へする軸仕事などの割合[W](流動仕事を除く)
  • h:比エンタルピー[J/kg]
  • z:高さ[m]、g:重力加速度の大きさ[m/s²]
  • 添字1:入口、添字2:出口

 比エンタルピーはh=e+p/ρです。eは比内部エネルギー[J/kg]で、p/ρは流体を押し込んだり押し出したりする仕事に対応します。右辺の括弧内は、単位質量当たりのエンタルピー・運動エネルギー・位置エネルギーの変化です。
 例えば、断熱で軸仕事がなく、高さの差を無視できるノズルでは、h + V²/2が一定になります。流れが加速すると、その分だけ比エンタルピーが低下します。理想気体ではエンタルピーは温度で決まるため、速度と温度を切り離して考えられません。
 ここで示したのは装置全体の収支式であり、非定常な流れにもそのまま使える一般形ではありません。場所ごとの温度変化を解く場合は、熱伝導や粘性による仕事を含む局所的なエネルギー方程式を用います。参考:NASA:Conservation of Energy

ベルヌーイの式との関係

 定常・非粘性・非圧縮性の流れで、体積力を重力だけとすると、オイラー運動方程式を流線に沿って積分して、ベルヌーイの式が得られます。

p+ρV²/2+ρgz=一定(同じ流線上)

 同じ高さなら、静圧pと動圧ρV²/2の和が一定です。ただし、異なる流線の間でも同じ定数になるとは限りません。また、摩擦損失が大きい区間や、プロペラ・圧縮機で流体に仕事が加わる区間をまたいで、この式をそのまま適用することはできません。
 摩擦によって機械的エネルギーが内部エネルギーへ変わっても、エネルギーそのものが消えるわけではありません。ベルヌーイの式が使えない場合にも、エネルギー保存は成立します。参考:NASA:Bernoulli’s Equation

方程式だけで流れは決まらない

 実際に流れを解くには、物性や条件も必要です。理想気体として扱う空気なら、状態方程式p=ρRTで圧力・密度・温度を結び付けます。ここでRは気体定数[J/(kg·K)]で、温度には絶対温度を使います。

  • 境界条件:入口の流速、出口の圧力、壁面の速度や温度など。必要な条件の組合せは流れによって異なります。
  • 初期条件:非定常計算を始める時点の速度・圧力・温度など。
  • 物性とモデル:粘性係数、熱伝導率、状態方程式など。乱流を平均化して扱う場合には乱流モデルも必要です。

 CFDは、これらの方程式を小さな計算領域に分けて数値的に解く方法です。計算結果にきれいな流線が描かれていても、境界条件や近似が不適切なら、実際の現象とは一致しません。まず何を無視し、何を残した式なのかを確認することが大切です。

まとめ

  • 連続の式は、流体の質量の収支を表す。
  • 運動方程式は、流体の加速度と圧力・粘性・重力による力を結び付ける。
  • ナビエ・ストークス方程式は粘性を含み、オイラー方程式は粘性を無視する。
  • エネルギーの式は、熱・仕事と流れの持つエネルギーの収支を表す。
  • ベルヌーイの式や非圧縮性の式は、適用条件を確かめて使う。

 基礎方程式を読むときは、まず各項が「何の変化」や「どの力」を表すかに注目すると、流れの現象と結び付きます。この考え方は、翼に働く揚力や抗力を理解する土台になります。

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